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最近の練習方針

以前は Roberto Giobbi の『Card College』や David Roth の『Expert Coin Magic Made Easy』などを教材として基礎技法を一通り、ある程度できるようになったら、後は演じたいトリックに必要な技法を練習する、という方針で練習していた。
が、Benjamin Earlの『Less is More』『The Shift』を読んだ影響で練習方針を変えることにした。その方針は次の 2 つ。

1. 基礎技法の精度をもう一段階上げること

今までは理想を 100 としたときに 80 程度の完成度を目指していたが、今後は 90 程度を目指したい。

2. 基礎技法以外の応用的な技法と知識をより多く習得し、引き出しを増やすこと

Benjamin Earl の Real Ace Cutting や Dai Vernon の The Trick That Cannot Be Explained のようなトリックでは、引き出しの多さがトリックの効果を高める上で重要になる。また、演じるトリックで直接的に使われない技法や知識も、氷山の一角を支える要素として創作や演技において重要な存在だと考えるようになった。
この理由から、まず使わないがフラリッシュにも手を出すことにした。

ということで、今は「基礎技法の精度をもう一段階上げること」と「応用的な技法と知識をより多く習得し、引き出しを増やすこと」に注力している。

The Shift #1

Benjamin Earl の新刊、のはずが、早くも昨年末に『The Shift #2』が出てしまったため慌てて読んでレビュー。#2 が届く前に読み終わって良かった…。
(Benjamin Earl. The Shift #1. 2019. https://www.studio52magic.com/product-page/the-shift-1.)

Effects

Spinner

演者と観客が四つ折りにしたカードを 1 枚ずつ持った状態でのトランスポジション。
物理的手法には目新しいところは無い。本トリックのキモはトランスポジションの現象が起きる瞬間に説得力を持たせる策略。これは面白いけど実際にどの程度機能するかはやってみないと分からないな、という感じ。
ちなみに、トランスポジションの物理的手法として別の手法も軽く提示されているが、詳細は彼の小冊子『Switch』辺りが参考になりそう(今は手に入らないかも知れないけど)。

Just a Second

ストップトリック。
かなり直接的な手法かつはっきりと目新しい工夫があるわけでもないため、怒る/呆れる人がいても仕方無さそう。一応、空間や目線の使い方はしっかりしているし、練習すれば実用はできると思う。類似のトリックをやる際にも参考になりそう。また、Real Ace Cutting 的な考え方が入っており、らしさを感じる。

Out of Oil

Out of This World のかなり大胆な改案。
全てが上手くいった場合、観客にはこのように見える。

観客がデックをシャッフルし、バラバラになっていることを確認した上でもう一度デックが混ぜられる。この状態で観客がデックを 2 つのパイルに配り分ける。観客がカードを配る間もその後も演者はカードに触れない。それにもかかわらず、2 つのパイルはそれぞれ赤と黒に完全に別れている。

全てが上手くいけば上記の通りの奇跡を起こせるが、実際には演者の負担が大きい上に観客にも依存する部分があると思う。まず、この現象に対しこのスライトは相当に上手くないと駄目なのでかなり難しい。さらに、理想的に現象を起こすには高いレベルでのオーディエンスマネジメントやプレゼンテーションが必要になる。一応、前口上の工夫により完全に上手くいかなかった場合でも現象を起こすことはできるが。 ちなみに Out of Oil というタイトルは勿論、Out of This World と Oil and Water に由来する。Oil and Water 要素はあると言えばあるが微妙なところ。

Thequnique

The Overhand DPS

オーバーハンドシャッフルからの DPS。
DPS には、カードをデックに挿入した直後という観客の注目がデックに集まっている瞬間に技法を実行しなければならないという弱点がある。The Overhand DPS は DPS の実行前にオーバーハンドシャッフルを入れることでこの弱点を解消している。勿論、オーバーハンドシャッフルからの LP であれば他に方法もありそうではある。とは言え、技法の引き出しは大いに越したことはないし、思いの外軽いタッチで LP 直前のポジションに持っていけるので習得して損はないと思う。

余談だが、個人的には DPS は上記の弱点以外にも色々と気になる点があり、あまり魅力を感じない技法の 1 つ。

The Combination Shuffle

複数のフォールスオーバーハンドシャッフルを組み合わせたフォールスシャッフル。
普通に良い。手癖にして自動的・無意識的に手が動くようになると良さそう。色々なフォールスオーバーハンドシャッフルの練習曲としても使える。

Theory

A New Angle

ディーリングポジションについて。
ある程度経験があれば、意識的にせよ無意識的にせよ実践している内容だとは思う。無意識的に実践している場合はそこに意識を向けることで技法をより上手く実行できるようになるかも知れない。
書籍内のイラストや SNS での動画マジックの影響についても述べられている。

The Art of Practice

練習法。普段意識しない部分を意識できるようになるため、技法やトリックの精度向上を期待できる。練習の方向性は Pass Trainer に近い。
スライトが上手い人の練習法なので説得力があって良い。

Influence and Deception

deception(騙し)と influence(影響)について論文形式で書かれた文章。
マジックにおける deception を中心に据えつつも、マジック以外の文脈における deception についての内容も含んでいる。なお、本章は単体で完結するものではなく、deception についての一連の論の最初の章という位置付け。『The Shift #2』に続きの論が収録されているらしい。

本章は deception についてのより深い話に進むために必要な概念を共有する意味合いが強い。そのため、あまり突っ込んだ内容にはなっておらず、それはそうだよね、となってしまいそうな感じ。
具体的内容としては、deception の定義に多くのページが割かれている。その他、decption の基本的性質や influence との違いなどついても論じられている。 また、本章はマジック外の領域も含む様々な文献を引用している。これらの文献の信憑性はまだ確認していないが見ておいた方が良さそう。とは言え、マジック外の領域の研究にももっと目を向けるべきだとは思うので、その観点では良かった。

まとめ

全体的に基礎に重きを置きつつ、普段意識していない領域に目を向けようという意識が強く感じられる。内容の正しさは保証できないが、深みを探求したい人にはお勧め。正解を得られない可能性はあるが読んで無駄にはならないと思う。
3 つのトリックについては実際に試さないと良いかどうか分からないな、と感じる。

2019 年映画ベスト

2019 年に観た初見の映画の本数は 100 本。その内、2019 年日本公開の新作は 22 本(先行上映を含む)。
ここでは新作ベスト 6 と、新旧合わせた初見ベスト 10 を記録しておく。
新作は昨年同様あまり観ていないので特に良かった作品ベスト 6 まで。

2019 年新作ベスト 6

  1. ゴーストランドの惨劇
  2. CLIMAX クライマックス
  3. ハウス・ジャック・ビルト
  4. ミッドサマー
  5. ファースト・マン
  6. カニバ/パリ人肉事件38年目の真実

2019 年初見ベスト 10

  1. キング・オブ・コメディ
  2. ゴーストランドの惨劇
  3. 愛のむきだし
  4. CLIMAX クライマックス
  5. ハウス・ジャック・ビルト
  6. ソーシャル・ネットワーク
  7. ポゼッション
  8. 蜘蛛の瞳
  9. おまえうまそうだな
  10. 来る

Cardstalt

先日、日本語版が発売された Roberto Giobbi の『Card College Lightest』をざっと眺めていたところ、Cardstalt というトリックが目に止まり非常に面白かったので紹介する。


現象

Cardstalt

観客にデックから同じバリューの 4 枚のカードを抜き出してもらいます。マジシャンは抜き出されたカードが何かは知りませんが、残りのデックを 1 度だけ素早くリフルし、そしてそこにない 4 枚のカードのバリューが何かを正確に言い当ててしまいます。

Cardstalt Plus

シャッフルされたデックから観客の 1 人がカードを 1 枚抜き出し、それを裏向きのまま脇に置きます。“Cardstalt” のプレゼンテーションからの流れで、マジシャンはデック全体を通して一度素早く見て、そして足りないカードが何であるかを言い当てます。

※ 現象はこちらから引用


Cardstalt に使われている原理は自分は全く知らなかったし、恐らくほとんどのマジシャンが知らないであろうもので、この原理が非常に奇妙で面白い。この原理は数理的なものではない上に他のタネが一切存在しないため、スライト・数理的原理の気配を完全に消したピュアなマジックが演じられる。また、原理を知れば分かるが、必然的に演技臭も消すことができる。
自分は Benjamin Earl の Intuitive Poker II や Max Maven の Roundabout のようなトリックは好物なので、必然的にこのトリックも大好き。
ちなみにこのトリックは Moris Seidenstein (Moe) が演じていたものらしいが、『Moe's Miracles』を読んだ限りではいかにも、といった感じ。この本はとても面白かったが、Giobbi が引用している『Moe and His Miracles with Cards』は恐らく別物なのでこちらも読みたいと思っている。が、入手手段が分からず困っている。

Cardstalt Plus は Cardstalt に続けて演じることが想定されたトリック。こちらは Cardstalt とは異なりマジシャンの誰もが知るような地に足の付いた基礎技法を用いて同種の現象を起こすわけだが、Cardstalt の原理と補完的になっており、それぞれのトリックの強度が上がっている点が構成として良い。また、トリックの終盤に組み込まれたあるサトルティが、シンプルかつ簡単ながら強い説得力を持っており、この点も素晴らしい。

個人的にスライト・数理的原理の気配が嫌なのは勿論、ミスディレクション臭・演技臭・サッカートリック臭なども苦手なのだが、これら 2 つのトリックはそういった要素を限りなくゼロに近付けられる点が良い。
また、記憶術系のトリックは驚異的な記憶力によって現象を達成しているというプレゼンテーションのため、観客にタネを訊かれて困る、ということが無い点が便利だったりもする。とってもお勧め。

『Card College Lightest』日本語版はこちらで購入できます。

地獄でなぜ悪い

地獄でなぜ悪い』(Sion Sono. Why Don't You Play in Hell?. Japan: 2013.)を観た。

これは自分が偉大な表現を生み出すためには全てを犠牲にしても構わないという非常に自己中心的な狂人の話で、この思想・価値観が響くかどうかで好みが分かれそう。ちなみに自分はとても好き。『セッション』・『ハウス・ジャック・ビルト』・『風立ちぬ』などが似た系譜だと思うが、やはりこれらも好き。少し毛色は異なるが、サドの『悪徳の栄え』における主人公ジュリエットを始めとする「悪人」たちも非常に自己中心的なのでとても好き。

ゴーストランドの惨劇

今更ながらパスカル・ロジェ監督の『ゴーストランドの惨劇1 について。

非常に大好きな映画です。
以下ネタバレありの感想。ネタバレ要素が本作の本質ではないとは思うが一応(例えば『ファイト・クラブ』も所謂ネタバレ要素はあるが、そこが作品の本質ではないのと同様)。

本作は主に次の 2 点で良かった。

1 点目は、単純にホラー映画というエンタメとして超楽しいという点。

本作の一番のベースはトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』だろう。悪役のでかい方はレザーフェイスの変形。他だと気味の悪い人形やケレン味ダリオ・アルジェント風。しつこいまでのジャンプスケアの多用に代表されるようにホラー映画のベタな手法のオンパレードが逆に潔く、諸々のやりすぎ感と相まって非常に楽しい。姉妹映画としても尊い。91 分という適度な尺。最高。

2 点目は、想像・創作に対する肯定が感じられる点。

本作の主人公ベスはパスカル・ロジェ監督の投影 2。ホラーの世界に無限の想像力を広げるベスは、想像の世界に逃げ込むことで残酷な現実を生き延びる。しかしそれは現実から目を背け逃げているだけ。それでも最後に現実に立ち向かう力を与えたのも想像の力によるもの。

ベスが対峙する過酷な現実は映画の外の(リアルな)現実のメタファー。制限なきホラーと想像力で残酷な現実に対峙する心意気が嬉しい。ベスがホラー小説を書く理由を訊かれて「正気を保つため」と答えるが、この言葉が全てを表している。