Blufflog

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The Shift #2 by Benjamin Earl

Benjamin Earl. The Shift #2. 2019. https://www.studio52magic.com/product/the-shift-2/.

Effects

今回の手順は全てスタンディングでできる点が特徴。特殊なスライトは使わないものの、特定のスライトを多用するため相当に上手くないと実演は厳しそう。

Stepping Stones

以下の 3 つの現象から構成され好きなタイミングで演技を終えることができる。このような手順を持っておくとテーブルホッピングなど時間調整が必要な状況で重宝しそう。

  1. 事前に演者がポケットに入れたカードと観客が自由に言ったカードが一致する
  2. 先程選ばれたカードと新たに選ばれたカードの位置が入れ替わる
  3. 先程選ばれた 2 枚のカードを用いた Two Card Monte

これまでにリリースされたいくつかの Benjamin の手順が組み合わさったイメージ。個人的には『Past Midnight』を観ておくとこの手順をより楽しめると思う。

Slow Roll

手順というよりテクニック。ここに書いてあることが本当に機能すればかなり便利。

M-Theory

時間をテーマにしたアンビシャスカード+α。面白い演出だが、観客を不条理的に混乱させつつ楽しませるためには高いプレゼンスキルが要求され、スライトも難しい。第一現象から現象に対して高度なスライトを要求されるが、ここは別法でも十分に機能すると思う。
David Williamson が excited したというワンカードバニッシュが見所。

Technique

手順と同様にこちらも全てスタンディングで使える。

The Erdnase Top Palm

Dai Vernon のいわゆる「Topping the Deck」とその tips の解説。基本的に目新しい内容は無いが、超重要なテクニックなので tips の 1 つでも有用なものを見付けられれば十分だと思う。
なお Benjamin はこの技法は Erdnase にクレジットされるべきと主張しており、その理由が書かれている。

The Riffle Force

クラシックなリフルフォースの tips。これも目新しい内容は無いので前巻で提唱された理論の実践として読むのが良さそう。

A False Swing Cut

フォールススイングカット。手法自体がシンプルなだけに細部が重要で、そこをしっかりと解説してくれるのはありがたい。『Past Midnight』の「Blind Cut」が好きな人は気に入ると思う。
目下、自分も練習中。

Theory

Breaking The Frame

カードマジックにおいて観客の注意をコントロールするための体とデックの動かし方。
基本的に前作『The Shift #1』の「A New Angle」を理解している必要がある。

The Art of Practice

ボールを使った練習法。この練習法が機能する根拠は不明なのでやる場合は信じてやるしかない。

Influence and Deception

  • deception(騙し)一般とマジックにおける deception の違い
  • マジックにおける deception をマジック以外の領域に活かす方法
  • マジック以外の領域の deception をマジックに活かす方法

まとめ

今回も非常に面白かった。『The Shift #3』 も手元にあるので後ほどレビュー予定。

Dani DaOrtiz: Connected by Dani DaOrtiz

今回は数日前に発売されたばかりの Dani DaOrtiz の『Dani DaOrtiz: Connected』について。

COVID-19 パンデミックの影響から世界的に social distancing, stay home が要求される中、完全リモート(オンライン)でできるマジックのレクチャーを見かけるようになったが、ついに名人 Dani によるレクチャービデオがリリースされた。
演者側のデックのみを使うトリックと、演者と観客側両方のデックを使うトリックがある。また、観客 1 人にカードを操作してもらうトリックと、観客全員にカードを操作してもらうトリックがある。

Oil and Water (in the Spectators Hand)

単品でも既に発表済みのトリックのオンラインバージョン。演者と観客が同じ様に赤いカードと黒いカードを混ぜると、観客のパケットだけが赤と黒に分かれる。Oil and Water というより Do as I do 的な不思議さ。

Ritual Zoom

完全ハンズオフの ACAAN(風トリック)。自分はある程度以上 Dani のマジックに親しんでしまっているため判断が難しいが、ノンマジシャンには充分通用すると思う。良いトリックだが Dani の通常の ACAAN の方がやはり良いとは思う。勿論こちらはリモートではできないが…。

Any Card Spelled

観客が自由にカードを選ぶ。演者がカードを配っていき、観客は選んだカードのスペルの場所でストップをかける。ストップをかけた所のカードが観客の選んだカード。

観客がデックを持っている必要が無いため気軽にできる。現象もクリーンかつシンプルでかなり良い。追加のアイデアも面白い。お勧め。

Mirror Ambitious

演者と観客両方のデックでアンビシャスカード。オンラインで観客のデックを操作できない状況で観客のデックのトップに観客のカードをどのように出現させるのかというところが肝だが、Dani らしく図々しい方法で解決している。本レクチャービデオで一番好み。

Interactive Chaotic Coincidence

Do as I do。パフォーマンス映像を見ながら実際に参加でき、マジシャンでも初見は引っ掛かる気がする。カオス感の演出や、トリックの根幹部分をさも重要でないように見せかける技術は流石の一言。

Business Zoom Cards

Oil and Water と同様に発表済みのトリックのオンラインバージョン。ここで使われているテクニックはオンライン環境における他のトリックにも応用可能。

まとめ

オンラインとオフラインのマジックでは前者に制約が多く、トータルで見るとデメリットが大きいとは思うが、それでも Zoom 等オンラインライブならではのアイデアも見られ、面白かった。
例えばオンラインのマジックでは、演者が観客側のデックを操作できないことをオフラインより強調しやすいということなどが考えられる。この辺りを上手く活かしてマジックの効果を強めていきたい。

ちなみに個人的には今後、安価なオンラインでのマジックのライブが増えていくのと同時に、インタラクティブ性の高いオフラインでのマジックの価値が高まっていくと予想している。また、高価格化したオフラインのマジックライブをオンラインで安価に同時配信するようなハイブリッドな形態も出てくるかも知れない。

Card College Light シリーズのトリックベスト 5

1. Cardstalt, Cardstalt Plus by Morris Seidenstein (Moe)

以前、こちらに記事を書きました。このトリックには練習しにくいという弱点があるのですが、Cardstalt Trainer という練習ツールを作って公開しているのでご活用ください。

2. The Telephone Trick by Howard Savage and William McCaffrey

何も知らずに見たら完全に霊能力(超能力)。

3. Your Fateful Hour by Carlhorst Meier

やや数理トリック感があるものの、特にノンマジシャンには強いインパクトを与える(良い意味でウケやすい)手順だと思う。よくあるカードマジックのように観客がカードを選ぶだけでなく、観客自身にとって意味を持つ「時間」を心に決め、それが当たるためインパクトが大きい。しかもカードだけでなく時間も運命的に予言されていたと感じる可能性があり、そこもインパクト強化に繋がる。懐中時計という道具立てと演者がマジックを始めたきっかけというストーリーも良い感じ。

4. Cheers, Mr. Galasso! by Ron Wohl (Ravelli)

原理をフルに活かした手順でシンプルに良い。簡単かつ色々な場面に適用できるので使い勝手も良い。

5. Risk! by Theodore Annemann

こういうこともできるということは知っておきたい。

備考

本シリーズはこちらなどで買えます。

カード・カレッジのトリックベスト6

Roberto Giobbi(ロベルト・ジョビー)の Card College(カード・カレッジ)シリーズを全巻読んだので、カード・カレッジのトリックベスト 6 を出してみた。
なお、各トリックのページ番号は 1-4 巻は東京堂出版の邦訳版で、5 巻はスクリプト・マヌーヴァ出版の邦訳版に対応。

1. トリメンタル

(Juan Tamariz and Louis Zingone, “Trimental,” vol. 4, pp. 126)

シンプルかつ強力な現象。複数の観客が参加した上でそれぞれの観客の持ち物を使うため、観客をトリックに強く巻き込める。好みに応じてメンタリズム的な要素を強めることができ、より本格的なメンタリズムの演技へと繋げることもできそう。観客の人数やトリックのハンドリングを柔軟に変更できる点も魅力的。

2. ミラクル・エーセス

(Roberto Giobbi, “The Miracle Aces,” vol. 4, pp. 106)

原理上、非常にクリーンなエースカッティング。原理を知らなければマジシャンでも不思議だし、原理を知っていても思った以上に上手くいくため不思議。最後のエースの出現方法に色々な可能性が開かれている点も良い。

3. All's Wells That Ends Wells

(Roberto Giobbi and Larry Jennings, “All's Well That Ends Well,” vol. 5, pp. 312)

アンビシャスカード・トライアンフ・オイルアンドウォーターの現象を詰め込んだ欲張りなトリックだが、タイムマシンをモチーフにすることで綺麗にまとまっている。砂時計を取り入れ時間の流れを可視化する演出も良い感じ。

4. 脈拍の変化

(“The Jumping Pulse,” vol. 1, pp. 232)

観客が演者の脈拍の変化を読み取り(!)演者が選んだカードを当ててしまう。本当にこの通りの現象なので強烈でない筈がない。

5. 手の中のカード

(Theodore Annemann, “A Card in Hand,” vol. 1, pp. 137)

超シンプルなカードの変化現象。しかし観客にカードを渡した時点で、そのカードが観客のカードでないと確信させることができれば、これは間違いなく奇跡になる。ある程度マジックに習熟してからこそ、こういったトリックを奇跡に昇華することに注力したい。

6. The Happy Birthday Card Trick

(Walter B. Gibson, Roberto Giobbi, and Harry Blackstone, “The Happy Birthday Card Trick,” vol. 5, pp. 83)

「Happy Birthday to You」を歌いながらカードを配っていくと観客のカードが現れる!シンプルで楽しいトリック。言ってしまえばスペリングトリックだがパズル感が無く、とても良い。ちなみにコントロール方法は記載の方法よりシンプルにできそう。

The Ultimate Guide To The Pass by Alex Pandrea

Alex Pandrea の The Ultimate Guide To The Pass。数年前に出たけどあまり話題になってない気がする。

Classic Pass

基本のクラシックパス。やはりカバー無しでは見えるというスタンス。

Brick Pass 2.0

Brick Pass のバージョン 2.0。従来のものよりやや動きが小さくなり、パケット間の割れ目が見えにくくなっている。解説はややあっさり目なので、しっかりマスターしたい人はオリジナル版のレクチャービデオも買った方が良いかも。

Cover Pass

カバーパス。Card College の方法とは異なるため参考になった。どちらの方法が一般的なんだろう。

The Open Pass

Card College の Display Pass や同じく Giobbi の Card Magic Masterclass の Goldin Pass と同系統。自分の最も使うパスがこのタイプで Dani DaOrtiz の演技も参考にしている。ちょっと違うかも知れないが、クラシックパスとダブルカットの中間くらいの使い勝手だと思ってる。

Herrmann Pass

ハーマンパス。クラシックパスよりやや動きが大きく時間も掛かるがほぼ見えなくできる。ブレイクを取らない方法やカラーチェンジへの応用も解説される。

Spread Pass

スプレッドパス。個人的には Helder Guimarães の Red Mirror も参考にしている。

Pandrea's One Hand Pass

ワンハンドパス(シフト)。割と素直な方法。自分は Benjamin Earl の Past Midnight で解説されている Justin Higham の Anti-Gravity Shift というワンハンドシフトを時々練習している。

P.S.

Pandrea のパスのレクチャーでは Turnover Pass もお勧め。これが一番上手いかも知れない。
最後に Alex Pandrea の最高傑作を貼っておきます。

Card College 1&2 Personal Instruction The Complete Course by Roberto Giobbi

Roberto Giobbi 先生の『Card College』Vol. 1, 2 の映像版。このレクチャー DVD の存在は知っていたものの絶版だと思っていた。が、Giobbi 先生のサイトでダウンロード版を発見したので購入。
元々 €125 のところ €49.95 で買えるのでお得。€125 というのは DVD 版の値段な気がする。1

レクチャービデオの内容は『Card College』Vol. 1, 2 の内容を抜粋したもので、説明も書籍に比べて簡素化している。加えて、書籍には載っていない技法やトリックの解説も少しだけ含まれている。マニアックなところだとカードケースからデックを取り出す方法や固いテーブルの表面からデックを取り上げる方法なども解説している。
個人的に見所は↓の辺り。

  • ピークコントロールにおける左手親指の位置(自分ができてなかっただけで書籍にちゃんと書いてある)
  • クラシックフォースの練習で本(Card College)にカードを突っ込む Giobbi 先生
  • サイコロジカルフォースで使えるサトルティ
  • サイコロジカルフォースのアウト

ちなみに『Card College』Vol. 3-5 は映像化されていないが、『Card Magic Masterclass』で Vol. 3, 4 の内容はある程度カバーされているので、併せて観ておくと良いだろう。

『Card College 1&2 Personal Instruction The Complete Course』はこちらで購入できます。

最近の練習方針

以前は Roberto Giobbi の『Card College』や David Roth の『Expert Coin Magic Made Easy』などを教材として基礎技法を一通り、ある程度できるようになったら、後は演じたいトリックに必要な技法を練習する、という方針で練習していた。
が、Benjamin Earlの『Less is More』『The Shift』を読んだ影響で練習方針を変えることにした。その方針は次の 2 つ。

1. 基礎技法の精度をもう一段階上げること

今までは理想を 100 としたときに 80 程度の完成度を目指していたが、今後は 90 程度を目指したい。

2. 基礎技法以外の応用的な技法と知識をより多く習得し、引き出しを増やすこと

Benjamin Earl の Real Ace Cutting や Dai Vernon の The Trick That Cannot Be Explained のようなトリックでは、引き出しの多さがトリックの効果を高める上で重要になる。また、演じるトリックで直接的に使われない技法や知識も、氷山の一角を支える要素として創作や演技において重要な存在だと考えるようになった。
この理由から、まず使わないがフラリッシュにも手を出すことにした。

ということで、今は「基礎技法の精度をもう一段階上げること」と「応用的な技法と知識をより多く習得し、引き出しを増やすこと」に注力している。