実は見てなかったシリーズということで、今回はリチャード・オスタリンド(Richard Osterlind)の『マインド・ミステリーズ』(Mind Mysteries)シリーズ 1 について。以前から部分的には見ていたものの実は通しで全巻を見たことが無く、今回、と言っても結構前だが全部見たので印象に残っているトリックについて書いてみようと思う。
メンタリストにとってはメンタリズムの基本的な現象とテクニックを勉強できるし、メンタリストに限らずマジシャン全般にとってもパーラーのトリックを学ぶ上で得るところが大きいシリーズだと思う。メンタリズムをやりたい、詳しく知りたい人は全巻見ると良さそうで、そこまで興味無くても 1 巻だけでも見ておくのがお勧め。1 巻は単にパーラーショーとしてのクオリティが高いため、メンタリストに限らず全マジシャンにお勧めできる。
第 1 巻
特にこの巻のトリックは他の巻と比べてオスタリンドが演じ慣れていると言うか、パフォーマンスの練度が抜けている印象がある。そしてトリック自体も全部良い。素晴らしいパフォーマンスを鑑賞する意味でも全マジシャン・メンタリストにお勧め。
バンク・ナイト
長年の経験から客受けが保証され、どんな客層にも受け入れられるオリジナル・マジック。どんなショーにでもオープナーとして最適。
分かりやすい現象、綺麗で楽しいエンディング、シンプルな方法論、言うことなし。
センターテア
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マジシャンの間で話題になった究極のセンターテア。その詳細をすべて解説します。スローでも周囲を囲まれていても演技可能。破った紙をすべて観客に手渡せます!
個人的には Ran Pink の T-REX の方が好み。
レーダー・デック
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4人の観客にデックをざっと見てもらい、好きなカードを覚えてもらいます。その状態からすべてのカードを当ててしまいます!質問を一切しないで特定しているように見える巧妙な秘密をついに公開!
オスタリンドのトス・アウト・デック的なトリック。最終的に決めたカードだけでなく迷ったカードも当てられるのが良い。なお、スクリプト ・マヌーヴァが翻訳しているレクチャービデオの中でもルーク・ジャーメイ やマックス・メイヴェン のトス・アウト・デックもあるのでこちらも見てみると良いと思う。
ウォッチ・ルーティン
1人の観客に好きな時刻を思い浮かべてもらい、もう1人の観客に腕時計の針を裏向きで適当にまわしてもらいます。まずマジシャンはその時刻を当て、それから時計を見ると、見事にその時刻になっています!即興で、借りた腕時計でも演技可能!
センターテアとは異なり紙を破らないビレットピークを学べる。
マガジン・テスト
ショーのクライマックスで演じられるマジック。観客に雑誌のページを自由に選んでもらい、後ろ手で適当にマルを書いてもらいます。その言葉を予言してしまいます!
非常にウケそうな展開。
第 2 巻
ブレイクスルー・カード・システムを使った手順が解説されている。以前はブレイクスルーのようなシステムは、より機能豊富なメモライズ ドデックの下位互換だと思っていた。しかしあるときから、システムの方が単機能で扱いやすい可能性も十分あると考えるようになった。システムは単機能だがメモライズ ドが持つ主要機能の 1 つに相当し、実際にはシステムだけで多くの強力な現象を実現できる。習得や取り扱いにかかるコストに対して得られる効果の効率ではシステムはメモライズ ドを上回る気がする。不適切な表現であることを承知で言えば「コスパ 」が良い。観客の体験を最大化することが究極の目的だとすると、システムを使うのはマジシャンが楽をするための安直な方法に思えるかも知れない。しかし、メモライズ ドでなくシステムを選択することで浮いたリソースを別の箇所に割り当てることでトータルでマジックのパフォーマンスを向上させ、結局は観客の体験を最大化できるかも知れない。要はケースバイケースだろう。
チャレンジ・マインド・リーディング
観客が思い浮かべただけのカードを、マジシャンがデックに触ることなく当てます。不可能としか思えないカードトリック!
非常に知性の高いノンマジシャンの観客がマジシャンの一挙手一投足を凝視していたとしても見破れないであろうカード当て。状況によってはこのような不可能性の高い、観客からのチャレンジに応えるようなトリックが役立つケースもあるだろう。また、ベンジャミン・アールの『パスト・ミッドナイト 第 3 巻』 にもかなり似たトリックがあり、クレジットされていたかは記憶が定かではないが多分にオスタリンドの影響は受けているのではないかと思う。
第 3 巻
チェンジ・オブ・マインド
観客が自分自身のポケットから何のコインを出すかを、マジシャンが予言する奇抜な手順。独創的なギミックの作り方も詳細に解説します。またクロースアップとステージの両方で演じるための方法も解説。
ここで使われる有名な某原理を強化するサトルティが良い。自分はやらないと思うけどギミックも面白いので一見の価値あり。
ビル・イン・シガレット
観客がサインしたお札が借りたタバコの中から出てくるクラシックマジック。観客の驚きが大きいにも関わらず、シンプルで簡単にできる手順です。
似た現象だとダレン・ブラウンの Smoke も有名。
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第 4 巻
グラス・オブ・ウォーター・プロダクション
水の入ったグラスを出現させる、クラシックマジックのオスタリンド・バージョン。完全にあらためたカラの紙袋の中から、両手を観客に押さえられた状態で水の入ったグラスを出現させます。ギミックを一切使わず手順構成の巧みさで実現した、多くのプロマジシャンも使う不可能現象!
グラスプロダクションはやっぱ良い。レナート・グリーンがよくやるやつも出すまでが速くて好き。
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インプ・パッド・ルーティン
いかにしてショーの前に観客から特定の情報を引き出すか。“事前に情報を書いてもらった”ことを本番で明かすことで、逆に不可能性を強調することに成功した逆転の発想とそのノウハウを詳細に解説!
インプレッション・デバイス の使い方、特にプリショーでの使い方について、使う際の注意点や正当化などについて勉強になる。インプレッション・デバイス のすごく基本的な取り扱いについては Psypher PRO のレクチャービデオが意外と悪くないかも。本番での当て方についてはジャーメイの『スカルダガリ』 もお勧め。
マークド・コイン・イン・ボトル
コインをビンの中に入れてしまうクラシック・マジックを、借りたコインにサインをさせて行ってしまいます。入った状態で、中のサインもしっかり確認してもらえます。
借りたコイン使用、スイッチなし、デュプリケートなし、サインありで本当にコインがビンに入る!こういう原理すごく好き。
マジシャンから見えないように、5人の観客がそれぞれの持ち物を黒い袋に入れます。マジシャンはその道具を手にとって、その道具の由来や持ち主を次々と当てていきます。
サイコメトリー はリーディングに繋げやすいこともあって好き。サイコメトリー とリーディングと言えばジャーメイが『Tarot Psychometry』 というのを出してる。これをサイコメトリー と呼んで良いかは微妙だけど。サイコメトリー では最後に残った物の持ち主を当てても不思議ではないという問題があるが、本トリックではこの問題に対して工夫がある。これはメイヴェンの『Prism』 に収録されているあるトリックを元にしたアイデア だ。サイコメトリー の最後の 1 人問題については同じくメイヴェンの『ナッシング』 に収録されているサイコメティア(Psychometier)で異なる工夫が使われているのでこちらも見ておくと良いだろう。
第 5 巻
スプーン・ベンド
まったく新しい、仕掛けのないスプーンの曲げ方。先を持っているだけなのに、みるみる曲がっていきます。スプーン曲げを次のステップへと進めた新メソッド!
スプーンベンディングで一番ウケそうな部分を短時間に凝縮したようなトリック。ここで使われる曲げ方の一部に Mr.マリック氏の手法も関わっているらしい。
ベリー・モダン・マインドリーダー
紙片と封筒を使って行う読心術。この演技だけでも絶大な反応を観客から引き出すことができます。
トリックと組み合わせたリーディングとしてすごく良い。シンプルな原理なので道具の準備・演技の双方で演者負担が低い。CR の練習にも良さそう。
デジタル・フィードバック
計算機を使用したマジックの最高峰!演技の中で観客に驚いてもらうポイントが多くあり、最後にはずっと記憶に残る現象となるマジック!
いかにも数理トリックといった感じだがこれはウケそう。原理も面白い。
リチャード・オスタリンドが最も大切にしていた秘密の一つ。観客に数字を1つ言ってもらいます。演者が初めから持っていた四つ折りの紙を観客に渡して開いてもらうと、まさにその数字が書かれています。恐ろしくシンプルで不思議さが際だつ傑作!
実際にやるかは別にしてもこのハンドリングは知っておいた方が良さそう。ノンマジシャンから見た印象がどれほどかは分からないが、この手の現象のよくあるやり方よりは多少なりとも不可能性が上がっているはず。
ストッピング・ウォッチ
VIDEO
観客の腕時計を止め、時刻を変える実践的なメソッドを完全解説。様々なタイプの腕時計の違った挙動に対処する方法も解説!
面白い現象だけど Apple Watch などのスマート・ウォッチではできないし、最近はやややりにくいかも知れない。
ホテル・キー・クラッシュ
ホテルのカードキーに念を送りデータを消去してしまうマジック。これをいかに観客の印象に残る強烈な現象にするか、その演出の秘密も公開!
迷惑で笑う。
第 6 巻
マルチプル・キー・ベンディング
観客から借りた複数のカギを曲げてしまう手順!カギを観客に握ってもらいますが、手の中で曲がっていくのを感じてもらうことができます。ステージで行うのに最適なキー・ベンディング!
キーベンディングのやり方を知らなかったので勉強になった。とは言え曲げて良い鍵を借りられるケースは少なそうで、なかなかやる機会無さそうなのが残念。
このDVDの中で最も学ぶ価値のある手順かも知れません。マジックの演技としても一級のものですが、それ以上に人生を変える方法を学ぶことができます。
ダイレクトな記憶術デモンストレーション。さすがにストレート過ぎる現象にも思えるが、ギャンブリングデモンストレーションなどと同様で驚異的な記憶力はそれ自体がエンターテイメントになるということだろう。記憶するものの名前などを言ってもらうフェーズが長く、記憶術そのものより過程を飽きさせないように演技する方が難しそう。なお、メイヴェンは『ナッシング』でメンタリズムにおける過程の重要性を語っている(メンタリズムに限らずマジック全般に当てはまると思う)。
ステノ ESP
ステノ・パッドだけで行える、メンタル・エピック系の現象!簡単で演じて楽しいだけでなく、オスタリンドがどのように発想を逆転させるかを学ぶこともできます。
特別な道具が不要で手軽に演じられる良作。上記説明文にある「逆転」のアイデア が面白い。
初公開のマジック。折りたたまれたカードを振るだけで、一瞬で表と裏が入れ替わる!クリップでカードを留めても演じることができ、最後は手渡しも可能!
すごくビジュアル。SNS 時代の現代では CG のようにビジュアルなマジックの動画をよく目にするが、そういったもの全般に比べて準備がだいぶ楽じゃないかと思う。複数の原理を組み合わせており仕掛けに到達しにくい点も賢い。
第 7 巻
トリビュート・トゥ・ターベル
観客に自由なカードを1枚覚えてもらいます。マジシャンがファンにしたデックの上に、別の観客の指を当ててもらうと…それがなんと覚えてもらったカード!
『Kayfabe』 でメイヴェンが似たようなのをやっていたが、こちらのオスタリンドのトリックの方が簡単にできそう。
自由に覚えてもらったカードが広げたデックから消え、事前にあらためたマジシャンのポケットから出てくる…。スタンダードな現象に工夫を加えた、シンプルかつ強烈なカード当て。
マニア好みではない気もするが実践的には簡単でウケると思う。忘れがちだが「ノンマジシャンにウケること」は超重要だし、そもそもこれは奥が深く高度な話だ。常に意識して軽視しないように心掛けたい。似たようなトリックが『パスト・ミッドナイト 第 3 巻』にもある。
ESP スタック
ESPを独自の法則でスタックにすることで、超能力研究で行われる透視テストを完全に再現。
解説にもある通りちょっと惜しいスタック。ただ現象によっては重宝しそうなので知識として持っておきたい。
オスタリンド・デザイン・デュプリケーション・システム
ESPスタックで行った透視テストを、観客が描いた複雑な絵で行う手順。マジシャンの見えない場所で描いてもらったものと同じ絵を、見事にスケッチブックに描き上げてしまいます。
もちろん仕掛けはあるわけだが、絵のディテールを似せる際の考え方は CR 的な要素があって楽しい。
ダッズ・フェバレット
観客がカットして4つに分けたパケットのトップが、全てエース!オスタリンドが子供の頃、父親から教わったマジックですが今見てもまったく古びない不思議さです。
これ他で見たことない 2 原理だったので面白かった。どちらかと言うとマジシャンに見せたいかも。自分はピット・ハートリングの Chaos を思い出した。
ホーンテッド・キー
カギが独りでに動く古典の現象。しかしオスタリンドの方法なら、マジシャンはまったく動くことなくカギが動き出します!
このトリックに限らずここで採用されているようなマインドセット で現象を起こすべきだと強く思う。もちろんオカルト的な意味ではなく。そしてホーンテッドキーに使えそうな鍵を探していてこれ を買ったけど質感等々良かったのでお勧め。
ソリッド・ゴースト
折りたたんだハンカチの中にいる「おばけ」が動き出す…。「おばけ」は消える直前まで観客自身に触って確認してもらうことができます。よくある道具ですが、オスタリンドはこれをショーのクライマックスとして行います。どのようにしてあの道具を一級のマジックに仕立て上げるのか!?
そういう素材を使うのかという驚きがあった。軽視するマジシャンは多いかも知れないけどこのトリックはウケそう。
P.S.
『マインド・ミステリーズ』シリーズで必要な道具の多くはオスタリンドのショップで買えます。