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事件現場から: セシルホテル失踪事件

今月配信が始まった Netflix のドキュメンタリー『事件現場から: セシルホテル失踪事件』を観た。

本作はいわゆる「エリサ・ラム事件」をメインの題材として、この事件の顛末を解説していく。
エリサ・ラム事件と言えば未解決事件的な文脈で有名だと思うが、本作を観ても分かるようにこの文脈で語るのは正しくない。この事件の最もまっとうそうな真相は、エリサ・ラムさんがセシルホテルで事故死したというだけのものである。それにもかかわらず、エレベーターの監視カメラ映像に映った彼女の見えない何かから追われているようなあまりにも奇妙な行動、セシルホテル屋上の貯水槽での遺体発見など彼女の死を取り巻く状況があまりにも不可解だったために、不謹慎な見方ではあるが、この事件が未解決事件・都市伝説・オカルト的な観点で興味を引きやすい要素に溢れていたことは確かにあるだろう。

そして、まさにこの事件に対する未解決事件・都市伝説・オカルト的な文脈での好奇心が、本作を観るモチベーションの一定以上を占めていることは否定し難いように思う。
このような不謹慎な好奇心を釣り餌にした本作では、セシルホテル周辺の LA ダウンタウン スキッド・ロウの治安の悪さやそれが放置されてきた現実、無責任なネットユーザーの言動など、事件の背景にある社会問題に極めて真面目に切り込んでいきながら、オカルト的文脈からかけ離れたまっとうなエリサ・ラム事件の結論を提示する。

これは穿ち過ぎかも知れないが、エリサ・ラムという一個人の死について野次馬的に覗き込んだ我々視聴者の好奇心そのものに対するカウンター的な感じもあり、ある種の居心地の悪さと共にドラマが終わる。

勿論、本作の内容そのものは(広義の)被害者の名誉や社会的道義の観点から極めてまっとうで「正しい」。しかし、あまりにもまっとうで当たり前のことしか言っておらず、それが悪いわけでは無いが、善悪の彼岸までは踏み込めていない点は気になる。しかし今回の題材には被害者がいることもあり、そこまで踏み込むべきなのかも定かではない。そしてこの先は、そもそもドキュメンタリーとは何か?良いドキュメンタリーとは?といったような根本のドキュメンタリー論に踏み込み複雑化しそうなので今回はここまで。