マリアーナ・エンリケス『秘儀』を読みました。
「闇」を崇拝するカルト集団である「教団」と、そこから逃れようともがく父子を中心とする人間模様が描かれるホラー小説です。
基本的には悪魔崇拝・黒魔術的なオカルトホラーではあるのですが、ヨーロッパのオカルティズムだけでなく南米の土着信仰が融合した上でクトゥルフ神話的ともいえる世界観が描かれている点が独創的です。
世の中の作品には、ホラー、オカルトの要素がありつつ、本質的には人間ドラマしか描いていないものも少なくありません。そのような作品を鑑賞すると、「この作り手は本当はホラーに興味ないのでは?」と思ってしまいます。一方、本作は人間ドラマを中心としつつも、ホラー、オカルト自体にもかなり力点が置かれていてよかったです。ただ、人間ドラマとホラー、オカルト要素の両方がしっかり描かれているので重厚ではあるものの、オカルトホラーというジャンル小説としては、純粋にエンタメとして楽しみづらい面はあるかもしれません。
人間ドラマとオカルトホラーという主軸に加え、幅広い要素が重層的に組み合わさっているのも本作の魅力です。
「闇」の崇拝とヒッピーカルチャーや神秘主義の交流。搾取者としての「教団」、富裕層、アルゼンチン独裁政権の繋がりと類似性。「教団」の犠牲者と独裁政権下の「行方不明者」など…。
1960 年代以降のアルゼンチンとロンドンを舞台に、複数人の視点で物語が展開します。やや詰め込みすぎではあるものの意欲的で、個人的にはこのように高密度な作品は大好物です。
本作では少年・少女たちが主役となるパートもあります。子供時代にトラウマを負った友人たちが成長してから集結して過去のトラウマである怪異に立ち向かう、という熱い展開も頭をよぎりましたが、その方向へは向かわずドライな結末に収束していきます。ただ、よくよく考えると、このような熱い展開はこの小説全体のトーンにはあまり合わないので自然な帰結ではあります。
本作の結末はミニマムで美しい一方、広げた風呂敷に対して小さくまとまりすぎている感はあります。また、フアンの息子ガスパルが「教団」に立ち向かう方法もあまりひねりがなく、説明的かつ受け身で、なんなら父親のフアン自身でその作戦を遂行できたのでは?とも思えてしまい、この辺りは微妙でした。
しかし全体としては、重厚なオカルトホラー小説としてとても楽しめましたし、大変刺激も受けました。このような作品が日本語で読めるのは幸運なことですし、ぜひ読んでみてください。

