Blufflog

This blog is bluff.

AΩ 超空想科学怪奇譚(小林泰三)

小林泰三著『AΩ 超空想科学怪奇譚』を読みました。

本作は基本的には人類と宇宙人のファーストコンタクト SF 小説です。しかし本作のファーストコンタクトは独特で、人間「諸星隼人」とプラズマ宇宙生命体「ガ」がいきなり融合してしまいます。
そして、時を同じくして地球に襲来した、「ガ」とはまた別の宇宙生命体「影」が地球上で怪獣化して暴れるのですが、隼人はガの超技術により巨大化して怪獣と戦うことになります。
…と、これだけでも面白いのですが、巨大化した隼人/ガというのは、実はあの「ウルトラマン」そのものであり、本作はウルトラマンのパロディ作品でもあります。

人知を超えた上位存在が人類を恐怖に陥れるという点で、本作は基本的にはクトゥルー神話的な宇宙的恐怖を描いています。しかし本作は、ヨグ=ソトース、ショゴス、ネクロノミコンなどクトゥルー神話のアイコンを表面的になぞるのではなく、ウルトラマンという日本の超有名アイコンを使って宇宙的恐怖の本質を描くという構成が素晴らしいです。さらに、「影」による人類文明の破壊が新約聖書(黙示録)におけるハルマゲドンとも接続されており、ウルトラマンを介して、科学(SF)、宇宙的恐怖、宗教を統合しようとする野心的な試みが見て取れます。

個人的に一番面白かったのは、人類の住む地球から遠く離れ、宇宙生命体「ガ」の種族の社会が描かれるところです。もちろん、人間とは異なる認知形態を持つ生命体の生態や社会を人間が描き、それを人間が読むことに無理はあるのだとは思います。それでもやはり、人類とはまったく違う生命体の社会を見る(読む)体験は非常に刺激的です。
この種族における性(ジェンダー)とロマンスには人間と共通する部分としない部分がどちらもあり、ここも興味深いです。この辺りについては本書の解説で小谷真理氏が見事に分析されているので、ぜひそちらを読んでみてください。1

そしてもちろん本作でも、著者おなじみの必要以上に詳細なゴア・グロテスク描写は健在です。このような描写は本作のテーマや本筋からすると本来不要です。しかし、このようなゴア・グロテスク描写は著者の得意分野であり、これを省くと小林泰三作品ではなくなってしまうので、バランスとしては歪ながら重要な要素といえます。

ちなみに、本作における怪獣の描写はそれこそクトゥルー神話的でありつつ、動物と機械が融合し変形する機械生命体的な要素もあり、トランスフォーマー(特にビーストウォーズ)が想起される点も楽しいです。
また、本作の終盤には、他のある小林泰三作品との繋がりを感じさせるちょっとした仕掛けもあり、これも嬉しいところです。

近年、中国の『三体』とアメリカの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が流行しましたが、AΩ は日本の SF 小説としてこれらの作品に堂々と渡り合える独創性に溢れた作品です。ぜひ読んでみてください。