Blufflog

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Cardstalt

先日、日本語版が発売された Roberto Giobbi の『Card College Lightest』をざっと眺めていたところ、Cardstalt というトリックが目に止まり非常に面白かったので紹介する。


現象

Cardstalt

観客にデックから同じバリューの 4 枚のカードを抜き出してもらいます。マジシャンは抜き出されたカードが何かは知りませんが、残りのデックを 1 度だけ素早くリフルし、そしてそこにない 4 枚のカードのバリューが何かを正確に言い当ててしまいます。

Cardstalt Plus

シャッフルされたデックから観客の 1 人がカードを 1 枚抜き出し、それを裏向きのまま脇に置きます。“Cardstalt” のプレゼンテーションからの流れで、マジシャンはデック全体を通して一度素早く見て、そして足りないカードが何であるかを言い当てます。

※ 現象はこちらから引用


Cardstalt に使われている原理は自分は全く知らなかったし、恐らくほとんどのマジシャンが知らないであろうもので、この原理が非常に奇妙で面白い。この原理は数理的なものではない上に他のタネが一切存在しないため、スライト・数理的原理の気配を完全に消したピュアなマジックが演じられる。また、原理を知れば分かるが、必然的に演技臭も消すことができる。
自分は Benjamin Earl の Intuitive Poker II や Max Maven の Roundabout のようなトリックは好物なので、必然的にこのトリックも大好き。
ちなみにこのトリックは Moris Seidenstein (Moe) が演じていたものらしいが、『Moe's Miracles』を読んだ限りではいかにも、といった感じ。この本はとても面白かったが、Giobbi が引用している『Moe and His Miracles with Cards』は恐らく別物なのでこちらも読みたいと思っている。が、入手手段が分からず困っている。

Cardstalt Plus は Cardstalt に続けて演じることが想定されたトリック。こちらは Cardstalt とは異なりマジシャンの誰もが知るような地に足の付いた基礎技法を用いて同種の現象を起こすわけだが、Cardstalt の原理と補完的になっており、それぞれのトリックの強度が上がっている点が構成として良い。また、トリックの終盤に組み込まれたあるサトルティが、シンプルかつ簡単ながら強い説得力を持っており、この点も素晴らしい。

個人的にスライト・数理的原理の気配が嫌なのは勿論、ミスディレクション臭・演技臭・サッカートリック臭なども苦手なのだが、これら 2 つのトリックはそういった要素を限りなくゼロに近付けられる点が良い。
また、記憶術系のトリックは驚異的な記憶力によって現象を達成しているというプレゼンテーションのため、観客にタネを訊かれて困る、ということが無い点が便利だったりもする。とってもお勧め。

『Card College Lightest』日本語版はこちらで購入できます。

地獄でなぜ悪い

地獄でなぜ悪い』(Sion Sono. Why Don't You Play in Hell?. Japan: 2013.)を観た。

これは自分が偉大な表現を生み出すためには全てを犠牲にしても構わないという非常に自己中心的な狂人の話で、この思想・価値観が響くかどうかで好みが分かれそう。ちなみに自分はとても好き。『セッション』・『ハウス・ジャック・ビルト』・『風立ちぬ』などが似た系譜だと思うが、やはりこれらも好き。少し毛色は異なるが、サドの『悪徳の栄え』における主人公ジュリエットを始めとする「悪人」たちも非常に自己中心的なのでとても好き。

ゴーストランドの惨劇

今更ながらパスカル・ロジェ監督の『ゴーストランドの惨劇1 について。

非常に大好きな映画です。
以下ネタバレありの感想。ネタバレ要素が本作の本質ではないとは思うが一応(例えば『ファイト・クラブ』も所謂ネタバレ要素はあるが、そこが作品の本質ではないのと同様)。

本作は主に次の 2 点で良かった。

1 点目は、単純にホラー映画というエンタメとして超楽しいという点。

本作の一番のベースはトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』だろう。悪役のでかい方はレザーフェイスの変形。他だと気味の悪い人形やケレン味ダリオ・アルジェント風。しつこいまでのジャンプスケアの多用に代表されるようにホラー映画のベタな手法のオンパレードが逆に潔く、諸々のやりすぎ感と相まって非常に楽しい。姉妹映画としても尊い。91 分という適度な尺。最高。

2 点目は、想像・創作に対する肯定が感じられる点。

本作の主人公ベスはパスカル・ロジェ監督の投影 2。ホラーの世界に無限の想像力を広げるベスは、想像の世界に逃げ込むことで残酷な現実を生き延びる。しかしそれは現実から目を背け逃げているだけ。それでも最後に現実に立ち向かう力を与えたのも想像の力によるもの。

ベスが対峙する過酷な現実は映画の外の(リアルな)現実のメタファー。制限なきホラーと想像力で残酷な現実に対峙する心意気が嬉しい。ベスがホラー小説を書く理由を訊かれて「正気を保つため」と答えるが、この言葉が全てを表している。

Bluffbox

Bluffbox というマジックのレパートリーなどを管理できる Web サイトを作ったので公開します。

https://bluffbox.haru52.com/

マジックのレパートリーを管理していないと、自分がどんなマジックができるのかが分からなくなりがちです(少なくとも自分は)。また、演技時間やテーブルの有無などの状況に応じたルーティンを組むのも面倒です。
紙の手帳・EvernoteExcel などでレパートリー管理をしている場合も、これらはレパートリー管理に最適化されたツールではないため何かと不便です。

そこで、マジックのレパートリー管理に最適化したサイト Bluffbox を作りました。Bluffbox ではトリック・ルーティン単位でレパートリーを柔軟に管理できます。もちろん、スマホでも PC でも利用可能です。
Bluffbox ではトリック・ルーティンに加え、以下の情報を管理できます。

  • 製品(e.g., 書籍、レクチャービデオ、マジックグッズ)
  • YouTube 動画
  • マジシャン

また、これらの情報を相互に関連付けることもできます。
さらに、記事の投稿・コメント、ユーザのフォローといった SNS 機能もあります。

全機能を無料でお使いいただけるので是非お試しください!
(情報を見るだけなら会員登録は不要ですが、情報の登録・編集には会員登録が必要です)

なお、サイトの不具合や脆弱性を見付けられた方はこちらからご連絡いただけると助かります。ご意見・ご質問もどうぞ。

追記

『初めてのJavaScript 第3版』を読んだ

オライリーの『初めてのJavaScript 第3版』1 を読んだ。

JavaScript をよく分かっていなかったので、ECMAScript 2015 (ES6) を一通り体系的に学べて良かった。

JavaScript 本だとオライリーのサイ本こと『JavaScript 第6版』が有名だが、ES6 非対応なので、同じくオライリーで ES6 対応の『初めてのJavaScript 第3版』を読んだ。

以下、簡単にメモ。

  • 全てはオブジェクト(キー・バリュー)
  • メソッド:オブジェクトのプロパティとして指定される関数
  • class 構文によりクラスベースの OOP が可能
    • 内部的にはプロトタイプベース(プロトタイプチェーン)だが、コードを書く際はクラスベースのつもりで書けば良い
    • class 構文は関数によるクラス定義のシンタックスシュガー
  • 非同期処理は新しい順に async/await (ES7) → ジェネレータ (ES6) → Promise (ES6) → コールバック
    • コールバックで複雑な非同期処理を実装するとコールバック地獄に
    • 新しい構文により複雑な非同期処理をシンプルに書ける
    • async/await が使える環境ならこれを使うのがベスト(?)
    • ジェネレータは直感的に分かりにくい
  • 'use strict'; でエラーチェックが厳しくなり good
  • typeof null === 'object'
  • メソッドの function: を省略可(ショートハンド)
const taro = {
  name: 'Taro Yamada',
  greet() { console.log('Hello!') }  // greet: function() { console.log('Hello!') } と同じ
}
  • アロー関数(ラムダ式的なやつ)は this を束縛しない(語彙的に束縛する)
'use strict';

this.val = 'global';

const fGlobalDef = function() { console.log(this.val); };  // this は呼び出し元オブジェクト(e.g., obj1, obj2)
const ArrowFGlobalDef = () => console.log(this.val);  // this === { val: 'global' }

const obj1 = {
  val: 'obj1',
  fMethod() { console.log(this.val); },
  ArrowFMethod() { (() => console.log(this.val))(); },  // Arrow function's IIFE
  fGlobal: fGlobalDef,
  ArrowFGlobal: ArrowFGlobalDef
}

const obj2 = {
  val: 'obj2',
  fMethod() { console.log(this.val); },
  ArrowFMethod() { (() => console.log(this.val))(); },  // Arrow function's IIFE
  fGlobal: fGlobalDef,
  ArrowFGlobal: ArrowFGlobalDef
}

obj1.fMethod();       // obj1
obj1.ArrowFMethod();  // obj1
obj1.fGlobal();       // obj1
obj1.ArrowFGlobal();  // global

obj2.fMethod();       // obj2
obj2.ArrowFMethod();  // obj2
obj2.fGlobal();       // obj2
obj2.ArrowFGlobal();  // global

// fGlobalDef() の this は呼び出し元オブジェクトになるため
// obj1.fGlobal() の出力は「obj1」、obj2.fGlobal() の出力は「obj2」になる
// ArrowFGlobalDef() の this は定義時のスコープでのオブジェクトになるため
// obj1.ArrowFGlobal() と obj2.ArrowFGlobal() の出力はどちらも「global」になる

ちなみにこちらは未読だが、技術評論社『改訂新版 JavaScript 本格入門』も似たコンセプトの本だと思う。

TypeScript などの AltJS や Vue.js などのフレームワークも勉強したいが、とりあえず次は『CSS3 開発者ガイド 第 2 版』2CSS をお勉強します。


  1. Ethan Brown(2017)『初めてのJavaScript 第3版』武舎広幸・武舎るみ訳,オライリー・ジャパンhttps://www.oreilly.co.jp/books/9784873117836/

  2. Peter Gasston(2015)『CSS3開発者ガイド 第2版』牧野聡訳,オライリー・ジャパンhttps://www.oreilly.co.jp/books/9784873117256/

Paper Work (Asi Wind)

今回は Asi Wind(アシ・ウィンド)のレクチャーノート『Paper Work(ペーパー・ワーク)』1 について。日本語訳がマジックランドから出ており、現在、以下のサイトで購入可能。

3-D Telepathy(3-D テレパシー)

3 人の観客に小さな紙を渡して、そこに情報を書いてもらいます。それぞれの紙は折りたたまれてよく混ぜられてしまいます。観客のうちの 1 人が自由に 1 枚の紙片を選び、残りの紙片は破ってしまいます(1 つは演者が破り、もう 1 つは観客が破きます)。演者は残った 1 つに書かれている情報を正確に読み取ってしまいます。他の観客から、何を書いたのか演者が尋ねられた時に、他の 2 枚の紙片に書かれたことも正確に読み取ってしまうのです。

個人的に本レクチャーノートで一番のお気に入り。本手順はいわゆるセンターテアだが、紙を 3 枚に増やし、選ばれなかった 2 枚を破るという流れになっている。これによりセンターテアに紙を破る理由を与えている点も素晴らしいが、複数の手法を組み合わせることで非常に追いにくくなっているところが巧妙。また、Pit Hartling の「Inducing Challenges」の実践例としても見事。選ばれた 1 枚の紙を読み取り、トリックが終わったと思わせた状態で、オフビートを利用して裏の仕事を実行しながら観客の挑戦を誘う。

演じてみたいが肝心のセンターテアのやり方が分からない。何で学ぶのが良いんでしょうか?

Double-digit Riffle Force(二桁のリフル・フォース)

デックの表を観客に向けてリフルします。そこで見えたカードの数字を 2 つ選んでもらいます。その 2 つの数字は演者がフォースした数字になります。この方法の面白い所は、その前にデックをリフルした場合にばらばらの数字が実際に見えるので、フォースした相手にも他の観客にも非常にフェアに見える事です。

似た方法は見たことがあるが、このフォースは一度のリフルで 2 枚のカード(というか数字)を覚えさせることができる点が特徴。ただ、手法自体の目新しさはあまり無いかも知れない。用途は違うが似た原理でもっと面白いリフルフォースがあり、それは本当に感動した。

Noah(ノア)

この手順の前半 2 段では、適当に選ばれた 2 枚のカードの色と数字が一致します。そして 3 段目では 3 枚のカードが適当に選ばれた後、表向きの状態でデックに戻したら混ぜてしまいます。偶然にも、表向きのカードのすぐ隣のカードがメイトのカードになっています。手順中、デックをしっかりと混ぜているのですが、全てのカードはメイトで隣同士になっています。

本書の目玉となるトリックで、現象は Matching Routine。徐々に現象の強度を上げていく 3 段+クライマックスという構成で、特にクライマックスの解決法はこのプロットの正解に思える。同様の手法は過去に無かったのだろうか?だとしたらこれは凄い。

第 2 段では、実際に起こっていることと、観客の頭の中で起こっていることを微妙に食い違わせるためのサトルティが使われており、これが非常に好み。マジックってこういうことだよ!と言いたくなってしまう。

唯一気になるのは観客がデックをシャッフルできない点。デック全体が特定のオーダーに揃うトリックでは、どこかで観客にデックを混ぜさせたい。より正確には、観客がデックを混ぜたという印象を残しておきたい。例えば、デック全体での Oil & Water では、観客にデックを混ぜさせるという手法がよく使われる。勿論、Matching Routine で混ぜさせる方がデックのオーダー的に難易度は高いが、どうにか観客が混ぜた印象だけでも与えられないだろうか…。

一応、本手順では、第 2 段で観客にしばらくデックを操作させるため、演者がずっとデックをコントロールしていた印象を若干打ち消している。これで、観客がデックを混ぜられないという弱点をカバーしているかも。

著者自身も発展途上であると書いているため、今後の発展に期待したい。勿論、現時点で素晴らしいトリックであることには違いないが。

ちなみに、観客の前で本手順のセットアップを行う方法も解説されているが、これはそれなりに頑張る必要がある。ただ、混ぜられたデック 1 組で臨機応変に手順を繋げ、次の手順の準備をしていくスキルは非常に重要だと思うので、Noah のセットアップに限らず練習したい。

Gang of Four(4 人の仲間)

演者はデックを裏向きの状態でテーブルにリボンスプレッドし、デックのトップ側から 1 枚ずつ表向きにしてテーブルに置いていきます。ここではスペードの 10 でストップがかかったとします。スペードの 10 を表向きでデックのトップに乗せてそこまでに表向きにしたカードは、裏向きにしてスペードの 10 の上に重ねてしまいます。デックを揃えておまじないをかけスプレッドすると 4 枚の 10 が表向きになっています。

DVD『Que Raro』に Dani DaOrtiz の『Twin Souls』という手順が収録されている。これは良い手順だが、観客の前でセットアップするのが難しいところがあった。Gang of Four ではトリックの中でセットアップを行い、Twin Souls に繋げることができる。このセットアップ方法は Twin Souls 以外にも応用が効きそう。

『Que Raro』では、観客の前でセットアップする方法を Dani が解説しているが、あまりにも直接的で笑う。Christian の方法は良い感じだが、Asi の方法がよりスマートだと思う。やはり手順の中でセットアップしてしまうのは良い。

なお、本レクチャーノートではフォースのアウトが解説されていない。この辺りを学ぶなら『Que Raro』・『Utopia』辺りの DVD を見ると良いだろう。『Que Raro』では、Twin Souls に続けて演じるトリックのアイデアを Dani が話しており、これも面白いので見てない人は是非。

P.S.

紙のレクチャーノートとか DVD とかいい加減やめたい。


  1. Asi Wind(アシ・ウィンド)(2019)『Paper Work(ペーパー・ワーク)』小林洋介訳.マジックランド.