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CBS by Paul Vigil

Paul Vigil の CBS ルーティンです。

CBS は Copper Brass Silver の略で、それぞれ、銅貨、黄銅貨(チャイニーズコイン)、銀貨を表します。CBS 自体は古くからある有名なギミックコインのセットで、SCB、CSB という表記も見られます。また、「スリーコイントリック」という名前でも有名です。本記事では今回紹介する商品名に準じて CBS という表記で統一します。

CBS の基本的な現象は次のとおりです。

演者は 3 枚のコインを取り出します。内訳は、銀貨、銅貨、チャイニーズコインです。観客が 3 枚のコインを調べますがどれも普通のコインです。演者は銅貨とチャイニーズコインを左手に握り、銀貨をポケットに入れ、観客に左手にあるコインは何かを尋ねます。観客が「銅貨とチャイニーズコイン」と答え、正解します。次に、演者が左手に銀貨を握り、銅貨とチャイニーズコインをポケットに入れます。再度演者は観客に左手にあるコインは何かを尋ね、観客が「銀貨」と答えます。ところが演者が左手を開けるとそこには銅貨とチャイニーズコインがあり、ポケットからは銀貨を取り出すのです。今度は、演者が左手に銅貨とチャイニーズコインを、右手に銀貨を握ります。次の瞬間には両手のコインが入れ替わってしまいます。最後に演者は左手に銅貨とチャイニーズコインを握り、ポケットに銀貨を入れます。次の瞬間にはポケットから銅貨とチャイニーズコインを取り出し、左手には銀貨だけがあることを示します。もちろん観客は 3 枚のコインを調べることができますが、完全に普通のコインです。

これが恐らくもっとも基本的な現象だと思います。1 対 2 のあり得ない交換現象が強烈なマジックです。3 枚のコインがすべて違う種類なのでエキストラでの解決も難しそうに見えますし、特に穴の空いたチャイニーズコインという異質な存在がタネの推測を難しくしている気がします。また、ルーティンの最初と最後に観客が 3 枚のコインを調べられるのも大きな強みです。コインとポケットがあれば演じられ、演技終了と同時にリセットが完了するようなルーティンも組みやすいです。ギミック自体も丁寧に扱えば、劣化せずに長期間使えるでしょう。

このようによいところばかりの CBS ですが、1 つ欠点があります。それは現象の単調さです。CBS では 1 対 2 の交換現象がひたすら繰り返されるだけで、現象のバリエーションに乏しくやや退屈に見えかねません。

今回紹介する Paul Vigil の CBS ルーティンはこの欠点をうまく解消していると思います。現象は次のとおりです。

第 1 段:演者が銀貨を片方の手に、銅貨とチャイニーズコインをもう片方の手に握ります。次の瞬間には銀貨が反対の手に移り、銅貨とチャイニーズコインも反対の手に移ってしまいます。

第 2 段:観客が銅貨とチャイニーズコインを握り、演者は銀貨を握ります。この状態で演者と観客のコインが入れ替わってしまいます。

第 3 段:マイザーズドリームのような現象の後、すべてのコインが消えてしまいます。

演出の妙により、単なる交換現象だけでなく、コインズアクロス的な移動、Which Hand、変化、出現(マイザーズドリーム)、消失など、コインマジックにおけるさまざまな現象がこのルーティンの中に詰まったような印象となっています。これにより、CBS の欠点である現象の単調さが解消されています。

そもそもコインマジックというものは、余分なコインを使っていると疑われたり、コインが消えても反対の手に隠し持っていると疑われたりしやすいマジックだと思います。Vigil の CBS ルーティンではこのような疑いを生じさせない点で、非常に強固なコインマジックだといえるでしょう(これは CBS 自体の特徴でもありますが)。

本手順では手の中におけるコインの位置や表裏の向きにまで考慮がなされており、非常に緻密です。スライトによるコインの検めにも余念がなく、非常に完成度が高いです。もっともこの検めに関してはわりと難しい部分もあるので、実践では省略するのもありだとは思います。それでも十分に機能する手順だと思います。

唯一の弱点としては、ルーティンの前後で観客が 3 枚のコインを調べられないという点です。これは元々 CBS の強みだった部分なのでこれが活かせないのは残念ではあります。しかし、スライトによってコインを度々検めていること、ルーティンの第 2 段で観客がコインを握っていること、最後にはコインがすべて消えてしまいそもそもコインを調べられないということを考えると、この弱点もある程度緩和されているように思います。

ちなみに、最終現象は難易度が高く、実践的にもやや演じにくいものとなっています。そこで第 3 段の最後については解説どおりに演じる以外にもいくつか方法がありそうです。たとえば第 3 段における最後の 2 枚について、2 枚目を観客に渡さず 1 枚目と同様にそのままポケットに入れてしまえば、最終現象を省略できます。これでもそこまで不自然にはならないと思います。この場合は 2 in the Hand, 1 in the Pocket のような演出で演じてもよいでしょう。また、Quiver(旧 VDR)を使うエンディングも演じやすいと思います。この場合は従来の CBS のようにエンドクリーンになるというおまけ付きです。具体的な手順は次の動画が参考になります。

今回紹介した商品は 30 分ほどのレクチャービデオと 20 ページの PDF ファイルです。この手順は元々 Vigil の『The Doors of Deception』という書籍内に収録されていたようで、その箇所を抜粋した PDF ファイルが付属しているという形です。

また、この商品は Vigil の手順を演じるのに必要なコインがセットになっています。しかし、CBS のコインをすでに持っている、または別途購入したいという人向けにレクチャー単体でも販売されています。親切!
CBS のギミックコインについては当記事の最後に具体的な商品を紹介しているので、よければ参考にしてください。

PDF ファイルでは本手順が非常に詳しく解説されています。元の本が絶版で入手困難なので貴重な資料です。そして英語のリスニングが苦手な自分のような人間には大変ありがたいです。個人的には、まずレクチャービデオをざっと見て、それから PDF ファイルを読み、その上でレクチャービデオをじっくり見直すのがよいと思いました(実際に自分もそうしました)。

この手順をそのまま演じるかどうかは別にしても、一見、一読する価値のある手順だと思います。オススメです。

オススメ商品

この手順を演じるには CBS のセットが必要です。そこで、オススメの商品を紹介します。

Vigil はハーフダラーサイズのコインを使っていますが、基本的にはワンダラーサイズでも問題なく演じられると思います。

SCB クライス社製(ハーフダラーサイズ)

Copper Silver Brass by Oliver Magic(ワンダラーサイズ)