今回は氣賀康夫氏の『ステップアップ・カードマジック』1 に収録されている『鏡の中カード』というマジックについて。
現象
二組のカードを用いる。裏が青と赤と二組を使うのがいいだろう。一つを術者が、もう一方を観客が保持する。二人は鏡のように同じ動作を何度か繰り返す。最後に二人が選んだカードが一致するので、それだけでも不思議であるが、さらに残りのカードのトップ(一番上)とボトム(一番下)とが一致するのでさらに驚く。
(本書より引用)
本作はデック 2 組を使った『Do as I Do』のバリエーションである。『Do as I Do』は初心者が習うトリックの定番だが非常に強力。自分はデック 2 組を使うことがほとんど無いためあまり演じないが、機会があれば是非演じたい大好きなトリックだ。
『Do as I Do』では、演者と観客それぞれがデックをカットした後、お互いのデックを交換する必要がある。しかし、デック交換の理由付けが難しく、どうしても不自然になってしまう。『鏡の中カード』を取り上げたのは、このデック交換の不自然さをうまく隠蔽しているからだ。
本作では、演者と観客の間に鏡があるという体でマジックを進める。これにより、観客は演者の動きをどのように真似れば良いのか分かりやすいし、演者も観客の動きを制御しやすい。さらに、観客が演者の動きを真似する中で、演者が「デックを交換する」と明言することなしに、いつの間にかデック交換を完了させてしまう。この鏡の演出が、本来不自然なデック交換を隠蔽していて素晴らしい。
しかし、お互いが選んだカードが一致するだけでなく、トップとボトムも一致する現象を入れたのは蛇足に思える。気になるのは、この現象を追加するための手法が強引気味な点だ。
本来、お互いが選んだカードが一致するだけで十分強力な現象なので、強引な手段を使ってまで、トップとボトムの一致という現象を追加するのは、トータルの効果としてプラスになっているか疑問。本作はデック交換をスマートにクリアしているので、そこに強引な手法を入れるのは合わないと感じる。強引で図々しい手法自体は大好きだが。