Blufflog

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The Shift #1

Benjamin Earl の新刊、のはずが、早くも昨年末に『The Shift #2』が出てしまったため慌てて読んでレビュー。#2 が届く前に読み終わって良かった…。
(Benjamin Earl. The Shift #1. 2019. https://www.studio52magic.com/product-page/the-shift-1.)

Effects

Spinner

演者と観客が四つ折りにしたカードを 1 枚ずつ持った状態でのトランスポジション。
物理的手法には目新しいところは無い。本トリックのキモはトランスポジションの現象が起きる瞬間に説得力を持たせる策略。これは面白いけど実際にどの程度機能するかはやってみないと分からないな、という感じ。
ちなみに、トランスポジションの物理的手法として別の手法も軽く提示されているが、詳細は彼の小冊子『Switch』辺りが参考になりそう(今は手に入らないかも知れないけど)。

Just a Second

ストップトリック。
かなり直接的な手法かつはっきりと目新しい工夫があるわけでもないため、怒る/呆れる人がいても仕方無さそう。一応、空間や目線の使い方はしっかりしているし、練習すれば実用はできると思う。類似のトリックをやる際にも参考になりそう。また、Real Ace Cutting 的な考え方が入っており、らしさを感じる。

Out of Oil

Out of This World のかなり大胆な改案。
全てが上手くいった場合、観客にはこのように見える。

観客がデックをシャッフルし、バラバラになっていることを確認した上でもう一度デックが混ぜられる。この状態で観客がデックを 2 つのパイルに配り分ける。観客がカードを配る間もその後も演者はカードに触れない。それにもかかわらず、2 つのパイルはそれぞれ赤と黒に完全に別れている。

全てが上手くいけば上記の通りの奇跡を起こせるが、実際には演者の負担が大きい上に観客にも依存する部分があると思う。まず、この現象に対しこのスライトは相当に上手くないと駄目なのでかなり難しい。さらに、理想的に現象を起こすには高いレベルでのオーディエンスマネジメントやプレゼンテーションが必要になる。一応、前口上の工夫により完全に上手くいかなかった場合でも現象を起こすことはできるが。 ちなみに Out of Oil というタイトルは勿論、Out of This World と Oil and Water に由来する。Oil and Water 要素はあると言えばあるが微妙なところ。

Thequnique

The Overhand DPS

オーバーハンドシャッフルからの DPS。
DPS には、カードをデックに挿入した直後という観客の注目がデックに集まっている瞬間に技法を実行しなければならないという弱点がある。The Overhand DPS は DPS の実行前にオーバーハンドシャッフルを入れることでこの弱点を解消している。勿論、オーバーハンドシャッフルからの LP であれば他に方法もありそうではある。とは言え、技法の引き出しは多いに越したことはないし、思いの外軽いタッチで LP 直前のポジションに持っていけるので習得して損はないと思う。

余談だが、個人的には DPS は上記の弱点以外にも色々と気になる点があり、あまり魅力を感じない技法の 1 つ。

The Combination Shuffle

複数のフォールスオーバーハンドシャッフルを組み合わせたフォールスシャッフル。
普通に良い。手癖にして自動的・無意識的に手が動くようになると良さそう。色々なフォールスオーバーハンドシャッフルの練習曲としても使える。

Theory

A New Angle

ディーリングポジションについて。
ある程度経験があれば、意識的にせよ無意識的にせよ実践している内容だとは思う。無意識的に実践している場合はそこに意識を向けることで技法をより上手く実行できるようになるかも知れない。
書籍内のイラストや SNS での動画マジックの影響についても述べられている。

The Art of Practice

練習法。普段意識しない部分を意識できるようになるため、技法やトリックの精度向上を期待できる。練習の方向性は Pass Trainer に近い。
スライトが上手い人の練習法なので説得力があって良い。

Influence and Deception

deception(騙し)と influence(影響)について論文形式で書かれた文章。
マジックにおける deception を中心に据えつつも、マジック以外の文脈における deception についての内容も含んでいる。なお、本章は単体で完結するものではなく、deception についての一連の論の最初の章という位置付け。『The Shift #2』に続きの論が収録されているらしい。

本章は deception についてのより深い話に進むために必要な概念を共有する意味合いが強い。そのため、あまり突っ込んだ内容にはなっておらず、それはそうだよね、となってしまいそうな感じ。
具体的内容としては、deception の定義に多くのページが割かれている。その他、decption の基本的性質や influence との違いなどついても論じられている。 また、本章はマジック外の領域も含む様々な文献を引用している。これらの文献の信憑性はまだ確認していないが見ておいた方が良さそう。とは言え、マジック外の領域の研究にももっと目を向けるべきだとは思うので、その観点では良かった。

まとめ

全体的に基礎に重きを置きつつ、普段意識していない領域に目を向けようという意識が強く感じられる。内容の正しさは保証できないが、深みを探求したい人にはお勧め。正解を得られない可能性はあるが読んで無駄にはならないと思う。
3 つのトリックについては実際に試さないと良いかどうか分からないな、と感じる。